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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)517号 判決 1956年2月14日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人大塚重親の上告趣意第一点について。

論旨は、被告人高橋太郎の検察官に対する供述調書は、同被告人の架空の陳述を内容としたものであるから証拠力がなく、これを証拠とすることは採証法則に反する、仮りに右供述調書が証拠となるとしても、証人荻原昭治、同藤本春雄の供述によっては被告人高橋が窃取運搬した松木材の全石数を認めることができないので、右証人等の供述により認められる石数を越えた部分は、被告人の自白を唯一の証拠としたものであるから、憲法三八条刑訴三一九条及び判例にも違反すると主張する。しかしながら原審は、その許された自由心証により被告人高橋の検察官に対する所論供述を真実と認めたのであって、その判断に違法は認められない。また、被告人の自白を補強する証拠は、自白の真実性を保障しうるものであれば足り、必ずしも犯罪事実のすべてに及ぶことを要するものでないこと、当裁判所の判例とするところであるばかりでなく、原審は被告人の自白のほか、所論の証拠を挙示しており、これらの証拠(特に検察官に対する藤本春雄の昭和二六年八月二八日附供述調書には、所論松木材の石数が約百石であったと記載されている)によれば、原判示事実を認め得るのであるから、原判決は被告人の自白を唯一の証拠としたものではないので、所論はこの点から見ても前提を欠き理由がない。その他の主張は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(判例違反というけれども具体的に判例を示さないので適法な理由にならない)。

同第二点について。

所論は、原判決の引用した第一審判決第四認定の松木材窃取の事実につき、原審の判断は論旨引用の判例に違反すると主張する。しかしながら、原審が本件の場合を森林においてその産物を窃取したものとして森林窃盗に当たると認めたことは、事実の認定においても、法律上の判断においても正当であるばかりでなく、原審の判断は引用の判例と少しも相反するものではないから、所論は理由がない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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